拡大するスマートロック市場。なぜ日本での普及が遅れているのか?


日に日に多く目にするようになってきた不動産テックのニュース。いよいよ不動産業界のIT化も進んできた感があります。その反面、実需面で見た時の不動産テックはどうでしょうか。日本でスマートホームを始めとしたIoTを導入した住宅は少なく、便利さや斬新さだけが独り歩きしている印象が否めません。

不動産テックの代表と言えば「スマートロック」。物理的な鍵を必要としない現代ならではの不動産テックですが、果たして日本でのスマートロック市場はどうなっているのでしょうか。今回は世界と日本を比べた時のスマートロック市場の規模を解説。具体的なデータを踏まえて、日本のスマートロック普及に何が必要なのかも考えてみましょう。

スマートロックとは?具体的な特徴と機能

スマートロックとは、物理的な鍵を使わず施錠・解錠できるシステムです。スマートフォンやカードキー、テンキー、生態認証など、複数の手段で開け閉めできる製品が一般的。電子的な方法で開け閉めするため、鍵を紛失する心配がありません。また鍵を共有できる機能もあり、民泊やホテル事業などでも活躍するでしょう。ではスマートロックで何ができるのか、特徴や機能を具体的に見てみましょう。

  • ドアの開閉を感知するオートロックシステム
  • GPSやBluetoothにより自宅前に近づくと自動で解錠
  • 施錠、解錠の履歴を確認できる
  • 合鍵を共有できる
  • アプリ、カード、テンキーなど複数の解錠方法を併用可能
  • タイマー設定による鍵の開け閉め
  • 万一の電池切れも市販の電池で対応可能
  • 鍵の工事は必要なく後付けで設置可能

上記はあくまで現在市販されているスマートロックの主な機能であり、操作性はもちろん、機能性も各社により違います。ただ概ね上記のような機能が付いているものと考えていただければよいでしょう。確かに多くの機能や特徴を見れば便利そうという印象があります。ただ価格帯が3~7万円と高め。仮に賃貸オーナーが各戸に標準設備として設置するには、決して負担が小さいとは言えないのが現状です。

世界のスマートロック市場規模と日本のスマートロック事情

では実際に、スマートロック市場や普及率はどういった状況なのでしょうか。まず世界のスマートロック市場自体は順調に拡大するというのが大半の見方。アメリカに本拠を置くAllied Market Research社の調査によれば、2016年にスマートロック市場は4億1,600万ドル。当時の為替レートで考えると、概ね453億円前後です。Allied Market Research社はさらに、世界のスマートロック市場は2023年までに11億7,500万ドル(2019年9月レートで1,280億7,500万円)にまで成長するだろうと予測しています。

Allied Market Research社の調査を基に筆者作成

同社の調査では市場の年間平均成長率は16.4%、特にアジア圏の年間平均成長率は18.2%まで高まるとしています。世界的に見ればスマートロック市場は順調に拡大するように思えます。

一方、日本ではどうでしょうか。ITや不動産テック関連のニュースを見るたび、必ずと言っていいほどスマートロックの話題を目にします。ただ普及しているとは言い難いのが正直なところ。事実、不動産ポータルサイトLIFULL HOME‘Sにて賃貸物件を調べたところ、スマートロックを設置している物件は非常に少ないことが分かりました。

【検索条件と結果】
エリア東京都全般
物件種別アパート・マンション・戸建て
物件数21万593件
検索ワード「スマートロック」14件
検索ワード「スマートキー」27件
検索ワード「電子錠」23件

全国規模で検索したところで結果はさほど変わらず。日本のスマートロック普及率はかなり低いだろうと予想されます。

日本でスマートロックが普及しない理由は「IT耐性の弱さ」

日本では「スマートロック」が具体的にどのような機能か知らないという人は少なくありません。以下は三井不動産レジデンシャル株式会社が運営するメディア「MEETS PARKS」で公開されているアンケート調査。なんと半数の人がスマートロックを知らないと回答しています。

【出典】MEETS PARKS

カードキーやテンキーによる解錠ができるシステムは多くの企業が採用しており、会社で使ったことがあると言う人は多いはず。それでもスマートロックを知らないとはどういうことなのでしょうか。ここで一つ興味深いデータを見てみましょう。下のグラフはアメリカのGartner社が調査した、ビジネスパーソンのITスキルに関する自己評価。なんとITスキルが低いと答える日本人は諸外国に比べて圧倒的に多いのです。

【出典】Gartner

スマートロックとは直接関係ありませんが、ITと関わる機会の多いビジネス領域でITスキルの低いうというのは、少なくともスマートホーム全体の普及を阻害している一要因と言えるのではないでしょうか。またスマートロックの操作においてメイン機器となるスマートフォンですが、60歳以上の高齢者の普及率が非常に低いという調査結果もあります。

【出典】総務省 情報通信白書

考えてみれば、これまでの物理的な鍵はシリンダーに挿して回すだけ。スマートロックは最初の取り付けから設定、実際の操作に至るまで、最初に覚えるべきことが多くあります。IT耐性の弱さこそが、日本人からスマートロックを遠ざけているのかもしれません。

日本のスマートロック市場は道半ば

低電力ながら電源が必要だったり通信も必要だったりするのは、確実性を求めがちな日本人の気質に合わないのではないか。またスマートロックに特段の必要性を感じられていないのではないかということも、上記までにご紹介した調査などから推測できます。

そこで最後にご覧いただきたいのが、日頃スマートフォンを使用している人が何に使っているかという調査。以下はMMD研究所が公表している「スマートフォン利用に関する実態調査」です。スマートフォンで主に利用しているのは、インターネットやメール、電話といった情報伝達に関わるものがメイン。カレンダーや電卓、ボイスメモといった便利ツールはほとんど使われていないのが分かります。

【出典】MMD研究所

つまり、「スマートフォンで家の鍵を開けられる」と言われたところで、いまいちピンとこない人は多いだろうと考えられるのです。スマートロックは鍵の紛失やピッキングによる空き巣被害を防げるうえに、手荷物が多くても自動で解錠できます。後付けで簡単に設置できるメリットもあり、便利という点は疑いようのない事実です。

ただ、日本人にとってスマートロックはまだまだ「得体のしれないもの」。特に鍵が共有できるという機能を知ってしまうと、咄嗟に「鍵が盗まれる」と思う人もいるでしょう。実際の活用事例や空き巣被害を防いだなどの実例をメディアが大きく報じない限り、日本におけるスマートロック市場はまだ道半ばと言えるのかもしれません。

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