不動産を売りたい街ランキングから考える不動産投資需要

20190430

2019年3月26日、株式会社リビンマッチが集計した「売りたい街ランキング 2019」が発表されました。

「売りたい街」と言われてもいまいちピンとこない方もいるかもしれませんが、ランキング結果とそれが意味するところ、そして実際の不動産取引動向を探っていくと意外な結果が見えてきます。

今回は売りたい街ランキングから考えられる不動産投資需要について、売りたい街とは一体何なのか、その街の不動産取引動向なども含めて解説します。

2019年 売りたい街ランキング 関東版

売りたい街ランキング

■出典:リビンマッチ:売りたい街ランキング 2019 <関東版>

売りたい街ランキングは、リビンマッチ社が運営する不動産の一括査定サービスに依頼のあった査定内容をもとに集計されています。ランキングされている街は査定を依頼された不動産の所在地から一番近い駅名です。

例えば、2位の「土浦」であれば、土浦市内にある駅は他に「荒川沖」「神立」もありますが、ランキングの街名が土浦ということは、土浦駅周辺で査定依頼が多かったということになります。

リビンマッチはランキングの発表だけでなく、ランキング結果について簡単な分析も行っています。その中の一部を抜粋してご紹介します。

【平塚エリア】
  • JR東海道線と湘南新宿ラインが通っているが、平塚市内の駅は一つだけ
  • 平塚市の人口は502人減少しだが、世帯数は944世帯増加している
  • 上記により、不動産の売買が積極的に行われた
【土浦エリア】
  • JR常磐線の始発があるため、アクセスの良さがメリット
  • 駅ビルの新装などの再開発が進められている
【八街エリア】
  • バブル期に開発されたエリアの売却が増えた可能性がある
  • 県道22号線の整備が進められている
【その他エリア】
  • 常磐線沿いの4駅がランキング20位以内に入っている
  • つくばエキスプレス沿線の開発で周辺地価は上がっているが、常磐線の利用客は減少傾向にある
  • 常磐線沿線の地域は不動産流通に影響している可能性がある

売りたい街ランキング上位の街と不動産取引動向

実際の不動産取引動向を見ながらもう少し具体的にランキング結果の要因を探ってみたいと思います。まずランキング1位の平塚の不動産取引の動向です。以下は平塚限定のものだけでなく、平塚を含む湘南エリアのデータも含まれますが、参考までにご覧ください。

平塚市の土地取引件数 増減率前年比94%神奈川県前年比平均98%
中古マンション 新規登録件数 増減率年平均▲0.66%神奈川県平均▲0.38%
中古マンション 成約件数 増減率年平均4.14%神奈川県平均5.51%
中古戸建 新規登録件数 増減率年平均▲0.6%神奈川県平均▲1.08%
中古戸建 成約件数 増減率年平均2.95%神奈川県平均8.91%
平塚市の空室率8.7%神奈川県平均11.01%

■出典:国土交通省「土地取引規制基礎調査概況調査結果」
レインズタワー「レインズデータライブラリー」
LIFULL HOME’S「見える賃貸経営」

データからも分かるように、不動産の取引件数は全て神奈川県の平均以下です。物件の新規登録件数が県平均より少ないのに加えて、成約件数も県平均より少ない結果になっています。ただ、空室率については悪い数字ではなく、十分低い水準となっています。売りたい街と言いながらも実際の不動産取引は必ずしも活発とは言い難い結果と言えるでしょう。

ランキングで特徴的であった街に関する分析

売りたい街ランキングの結果と平塚の不動産取引動向を言い換えると、「売物件も増えないが買う人も少ない」と言えるのではないでしょうか。その可能性を踏まえて、今度はリビンマッチの分析する他のデータについて検証してみたいと思います。

まず、「土浦、八街は開発事情が影響している」と述べられていましたが、土地開発は周辺の土地の買い上げや不動産取引を誘発させるイベントですから納得せざるを得ません。ただ、気になるのは「常磐線の利用客が減少傾向にあることが不動産流通の低下に影響している」という分析についてです。

筆者が確認した限り、常磐線に特化した不動産取引動向のデータ等は特にありませんでした。そこで、LIFULL HOME’S運営の見える賃貸経営で公表されている「住宅全般空室率」と、国土交通省が公表する土地取引規制基礎調査概況調査から「土地取引の件数」を確認してみました。

リビンマッチでは常磐線沿線駅でランキング上位にあった「土浦」「水戸」「牛久」「柏」の4駅を挙げています。これに対して土地取引動向は以下のようになっています。

【常磐線沿い4駅の住宅全般空室率】
茨城エリア平均12.83%
土浦駅22%
水戸駅19%
牛久駅10.7%
千葉エリア平均14.56%
柏駅11.8%
【常磐線沿い4駅の土地取引数前年比】
茨城エリア平均98%
土浦駅101%
水戸駅101%
牛久駅100%
千葉エリア平均100%
柏駅101%

■出典:LIFULL HOME’S「見える賃貸経営」関東
国土交通省「土地取引規制基礎調査概況調査結果」

住宅全般空室率で特徴的なのは茨城エリアの土浦と水戸です。平均13%ほどなのに対し、20%前後と非常に高い空室率であることがわかります。また、土地取引数の前年比に関しては、平均に対して大きく上振れているとか下振れているということはありません。同県内の他エリアでは平均より5~10%ほど離れている地域もありますので、土地取引が活発ではないエリアと言えるでしょう。

不動産の一括査定を依頼する人の心理

では、ここまでのデータを踏まえて「不動産投資」という視点で見た時にどう考えるべきでしょうか。まず、売りたい街ランキングの結果を含めて平塚と常磐線沿いのエリアに関する取引動向に関してまとめます。

  • ランキングの1位が平塚駅
  • 市内唯一の駅であり世帯数の増加から不動産取引が活発化したとの分析
  • 実際は売り物件が増えたとは言えず、同時に成約した物件数も少ない
  • 常磐線沿いの4駅が20位以内にランクインした
  • 常磐線沿いはつくばエキスプレス周辺の開発により利用者が低下しているとの分析
  • 土浦駅と水戸駅に関しては空室率が非常に高い
  • 常磐線沿い4駅の土地取引動向は県内平均と変わらない

上記をまとめると、「不動産を売りたい意向はあるものの取引には至っていない」と言えるのではないでしょうか。そもそもリビンマッチのランキングはあくまで「一括査定依頼」を集計したものですから、それが必ずしも取引に至ったということではありません。

不動産一括査定サービスは今や珍しいサービスではなく、査定依頼を出そうと思えばいつでも可能です。それ故に「売りたい街」としてランキング上位であったとしても、それが「不動産取引の活発な街」と考えるのは早計と言えるでしょう。

むしろ一括査定依頼の多い街には「売りたいとは思っているが、売るに売れない」というネガティブな事情を抱えている可能性も考えられます。昨今よく聞く「負動産」をイメージされる方もいるかもしれません。少なくとも不動産投資の視点でランキングデータなどを参考にするなら、その結果が何を示しているのか十分留意する必要があります。

まとめ

今回ご紹介したデータに他の要素を付け加えるとするなら人口動態です。総務省では「住民基本台帳人口・世帯数」という住民票などをもとにした人口推移を公表していますが、まだ昨年分までしか公表されていません。

確認したところ、昨年の神奈川県内における社会増減(住民票の移動による人口増減)の割合が0.24%増なのに対し、平塚市は0.42%増と良くも悪くもない結果でした。

そう考えると、やはり一括査定数の集計による売りたい街というのは、あくまで不動産所有者の「売りたい」という意向が数字に表れたにすぎず、不動産取引の動向とは別ものとして考えるデータと言えるのではないでしょうか。

4.75/5 (4)

記事の平均評価